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小倉昌男 経営学/小倉昌男

はじめに

「経営学」というタイトルだけを見て、初めは理論ばかりが並んでいそうな印象を受けました。
しかし、本書には、著者自身が経営者として自分で考えたこと・やったことが書かれていました。
そこには借り物の言葉はなく、自分の言葉で書かれた文章があったように感じます。
だからこそ、本物の経営が強く感じられる内容になっているのだと思いました。

本書を通して、自然と「経営」というものの一端を考えることができました。
特に、コスト意識・論理的思考・トレードオフ(選択と集中)・差別化といったキーワードが、考えを深めるきっかけとなりました。

 

概要

本書には、著者である小倉昌男が、経営者として0から宅急便事業に挑んだ過程が記されています。
下図に示すように、その事業の成長は凄まじいものでした。ただ、その具体的な成功ストーリーよりも、経営への姿勢や考え方といった抽象的な部分からの学びが多くある一冊でした。

やや時代背景は古くなりつつありますが、本書から得た学びは、今もなお実践に活かせると感じました。


※本書内データより作成

今後に活かしたい学び

コスト意識について

経営者は売上だけでなく、コストのことも考える必要があります。

基本的なことではありますが、本書ではそのことを強く意識させられました。
売上-コスト=利益であって、売上だけでは会社経営は成り立たちません。

現場社員として働いている頃は、売上・粗利までしか求められないことが多いのではないでしょうか。仕事の評価も売上・粗利で行われるため、何かきっかけがない限り、コストを意識することは少ないと思います。

私自身も社会人6年目くらいにして、ようやくコストに関することが頭に浮かび始めたというのが正直なところでした。経営者と対等に話す、あるいは自身が経営者を目指すのであれば、コストの視点は持たなければならないと気づきがありました。

著者が個人宅配市場へと関心を寄せたきっかけとして、以下のような例がありました。
コストのことを考えた具体例として参考になりました。

①本社家賃・賃金を加味した競争力
ヤマト運輸は本社が東京にある一方で、競合の本社は地方にある。その差は家賃や賃金ベースとして、企業が抱えるコスト面に現れることとなる。

②適正な設備投資
売上・仕事量のピーク時にあわせて設備投資を行って規模を拡大してしまうと、閑散期には設備・人員が過剰となる。その結果、利益が出にくい会社体質となってしまう。

コスト意識と全員経営

「全員経営」とは、経営の目的や目標を明確にしたうえで、仕事のやり方を細かく規定せずに社員に任せ、自分の仕事を責任を持って遂行してもらうことである。

宅急便の事業においては、現場の第一線で働くセールスドライバーが自発的に働くことが不可欠である。著者はそう考えて、「全員経営」の体制を基本に人事・労務管理を進めていきました。

この考えは素晴らしいと思います。しかし、経営という言葉を持ち出すにはちょっとおおげさではないかと感じてしまいました。本書の定義では、「全社員が同じ経営目的の下で、自律的に働くこと=全員経営」となっています。自律的というだけで、「経営」と解釈するのは無理があるのではないかと思いました。

時代の流れの中で、中心となる産業は移り変わってきています。今の時代、社員に自律的な働きを求めることは、特別ではなくなっています。

著者が経営者であった当時は特別なことだったかもしれないですが、今やそれだけでは企業の競争力とはならないように思います。現に、私が働く会社のメンバーを見渡しても、言われたことだけをやっている人はほとんどいないように感じました。皆何かしら自分で考えて行動を起こしているのではないでしょうか。

では、今の時代にあった「全員経営」とは何なのでしょうか。

まだ経営者のレベルにない自分が語るのもどうかとは思うのですが、社員一人ひとりが会社のコスト意識を持ち始めた時、それは「全員経営」と呼べるのではないかと考えます。
本書を通じて、経営にはコストの視点が必要だと学んだことで、そう考えるようになりました。

売上を伸ばし、顧客に喜んでもらい、部署の粗利目標を達成する。
そこからもう一歩踏み込んで、それらの背後でどれくらいのコストがかかっているのかを気にかける。
全員がその意識を持つことができれば、なかなかに強い企業になるのではないでしょうか。

論理的思考について

経営者にとって一番必要な条件は、論理的に考える力を持っていることである。なぜなら、経営は論理の積み重ねだからである。

「論理的思考はビジネスマンにとって重要なスキルだ。」

働き始めてからというもの、折に触れてこの言葉を繰り返し聞かされてきたように思います。
ただ、本書における言葉は、他とは比べ物にならないほどに重みがあると感じました。

著者が宅配事業を計画する過程で考えたことが、本書には非常に具体的に記されています。その内容は、感動的ですらありました。

必要なセンターの数を見積もるにあたっては、フェルミ推定の要領で必要数を概算していました。市場規模の計算にあたっては、社員を使って調査をし、事実に基づく基本データを集めていました。

徹底的な論理的思考が事業を成功に導く。本書からは、そのことを大いに学ぶことができました。

また、本書には「仮説」という言葉が多く現れた印象があります。新規事業という未知の領域では、問題が山のように存在します。その問題一つひとつに対して、著者は思考を巡らし、論理を積み重ねていました。論理的思考を徹底して繰り返すその姿勢は、ぜひ見習いたいと思いました。

経営のトレードオフについて

経営には常にトレードオフの問題がある。それに対する正しい対応を考えるのが、経営者の大きな責任であると思う。

「サービスが先、利益は後」「安全第一、営業第二」
著者はトレードオフの問題に対して、自分で考えた論理で決断を下しています。

“第二”がなく、”第一”ばかりであるということは、本当の第一がない、ということを表してはいないだろうか。

この言葉にはハッとさせられました。

何かを優先するということは、何かを優先しないということ。
選択するとは何かを捨てるいうこと。

会社全体でも部署の中でも、あれをやろう・これをやろうという決定あっても、あれはやらない・これはやらない、という決定は少ないのではないか、と思えてきました。

自分の仕事においても、足し算の決断ばかりでなく、引き算の決断も増やしていかなければと考えました。

トレードオフの問題に絶対的な答えはありません。だからこそ、経営者がリーダーシップを発揮し、決断を行っていかなければならないのだと思います。これは、ジャック・ウェルチの著書「ウィニング 勝利の経営」を読んだ際にも学んだことです。二冊の経営に関する本から、共通点を見つけることができて、学びを深めることができました。

サービスの差別化について

宅急便におけるサービスの差別化

ヤマト運輸はサービスを差別化するために「翌日配達」を掲げました。さらに言うと、翌日配達ではなく、「どこでも翌日配達」ということにこだわっていました。その実現にあたって問題は山積みで、解決は一筋縄ではいかなかったようです。

しかし、その難しさの反面、経営者としてその一点での差別化にこだわったことは、事業の成功にプラスに働いていたと、本書から読み取ることができました。
全国での翌日配達の実現に向けて、ヤマト運輸は一切妥協しなかったようです。一部のエリアでは赤字になっていた可能性もあります。ただ、徹底した差別化の見返りとして得られるブランドは、その赤字を補って余りあるものだったようだと思いました。

翌日配達を実現してブランドを確立 ⇒ 集配個数が増える ⇒ 荷物の密度が上昇し、集配車の稼働率が上がる ⇒ 利益が出やすくなる

宅急便事業の黒字化の背景には、このようなストーリーの流れがあったのではないでしょうか。この見方が正しければ、著者が決断したサービス差別化の方針は、事業の拡大成長とも整合性が取れていたと言えると考えます。

翌日配達にこだわりすぎることは、単体で見れば、赤字になることをやっているようにも見えます。しかし、俯瞰して事業全体のストーリーを見渡すと、翌日配達でのサービス差別化は、事業の黒字化に欠かせないピースだったということなのだと思いました。

楠木 建さん著書の「ストーリーとしての競争戦略 優れた戦略の条件」を思い出す内容でした。

差別化の実行

サービスの差別化をキーワードとして事業を展開するために、著者はサービスレベルの数値化を試みていました。ただ目指そうと社員に言い聞かせるのではなく、きちんとサービスレベルのモノサシを整え、数値化を実施しています。この取り組みを、私は非常に興味深く感じました。仕事における何が利益の創出につながるのか、それが仮説としてでも見えていたからこそ、徹底した実行に踏み切れたのではないでしょうか。

利益はサービスのどの部分から生まれるのか? 

本書で得た上記の気づきによって、そんなアイデアが私の頭に浮かぶようになりました。

まとめ

経営を本格的には学んだことがない私にとって、本書は非常に参考になりました。

宅急便のサービス開発にあたって著者は、自らが考え、行動を起こしていました。その具体的な記述からは、「考える姿勢」そのものを学び取ることができました。また、考え方については、抽象化した上で自分の仕事に活かしていきたいと思います。

コスト意識・論理的思考・トレードオフ(選択と集中)・差別化

これらのキーワードから考えたことは、自分自身の中でたくさんの気づきにつながりました。まだ考えが未熟な部分もあるので、今後でそこを深めていければと思います。