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ザ・ファシリテーター/森 時彦

はじめに

ファシリテーションについて学ぶのは、本書が初めての経験でした。
読みやすい物語形式の内容を通して、ファシリテーションによって議論を活性化する技術を学ぶことができました。

本書を読みかけの頃に仕事で議論をする場がありました。
その場ではファシリテーターを務めることはできなかったものの、「ファシリテーション」という概念が頭にありながら、その場に臨むことができました。
その経験を活かして、より良い議論についても考察してみたいと思います。

本書のポイント

ファシリテーションについて

ファシリテーションとは、
人と人とのインタラクションを活発にし、創造的なアウトプットを引き出すもの

■ファシリテーションの効果

・チームで課題が共有され、考えの交流が促進され、創造的な答えが導かれやすくなる。
・各々に考えさせるため、動機が内在化し、自発的で活力に溢れた行動につながりやすい。

■優れたファシリテーションの特徴

・マイナスの感情や不必要な遠慮・配慮を排除し、積極的なプラスの感情を横溢させる。
・納得性のある議論のフレームワークを提供し、効率的なグループ思考を促す。
・質問を有効に使いながらメンバーを誘導し、常に目的に向かって進む。

■ファシリテータに求められるもの

・中立的な立場でメンバーの話をよく聞く姿勢
・優れた論理的思考
・事実ベースで議論する姿勢

■組織変革とファシリテーションの関係

トップダウンでの組織変革は失敗に終わることが多い。
それは、トップの命令だけでは、組織を成すメンバーの行動に変化が起きないからである。
組織変革を成功させるには、組織の内側から変革の波を起こす必要がある。
社員一人ひとりの意識を変え、行動を変えること。
それが組織変革における重要なポイントである。
ファシリテーションは、メンバーを巻き込み、チームを活性化させる。
そのため、組織変革において、ファシリテーションをうまく活用できるかは重要なカギとなる。

フレームワークについて

チームでの議論におけるフレームワークの役割は、
そのプロセスを通じて皆が問題意識を深く共有し、納得しやすくなることにある。

 

SWOTは、機械と脅威という環境要因と、自社の強みと弱点という内部要因を組み合わせた簡単な表を作成するエクササイズだが、完成した表よりは、これを皆で作成するプロセスが重要なのだと、潮崎は改めて実感していた。書かれた言葉以上に、問題意識が深く共有化される。それを目の前にして議論すると、建設的な意見が増える。同じことでも外部の人間から言われたのでは、反発が生まれるかもしれないが、こうして自分たちが考えれば動機が内在化する。そういう納得効果がSWOTという共同作業にはある。この枠組の中で関係者が共同作業をし、作成する過程が重要なのだと、潮崎は繰り返し思った。

上記は、私がなるほどと思った箇所を本書からそのまま抜き出したものです。(※特に重要だと思う部分を太字にした。)
本書に登場するSWOTを始め、フレームワークとして有名なものはいくつもあります。
3Cや5F(ファイブ・フォース)などがそうですね。

ただ、それらは知っているだけではなんの役にも立ちません。使い倒してなんぼのツールです。自分はそれらのフレームワークの使い道を、自分一人で考える時に思考を整理したり、MECEに考えるために使うものだとばかり思い込んでいました。

しかし、本書を読むことで、一人の思考のためにフレームワークを使うだけでは、その本来の力を十分に引き出せていないことがよく分かりました。

ファシリテーションにおいて、フレームワークが用いられる理由。
それは、アウトプットの質を高めることよりも、その議論のプロセスを通じて皆が問題意識を深く共有し、結論としてのアウトプットに納得しやすくなることにあるのではないでしょうか。
議論したメンバーの納得性が高ければ、その後のアクションにもつながりやすいはずです。
アクションにつながりやすいかどうか、これは実際の仕事においてたいへん重要なポイントだと感じました。

リーダー像について

リーダーは、必ずしも議論の正解を持っている必要はない。
ファシリテーションを通じて、チームから創造的で優れたアウトプットを引き出せば良い。

『私には技術的なバックグラウンドはありません。私にできることは、より価値の高い案件の発掘と優先順位づけです。』

本書の主人公が、メンバーに向かってこう発言した場面はとても印象的でした。
リーダーたるもの、そのチームの中で一番優れた存在でなければならない。なんでも知っていないといけないし、自分自身が考えたことでチームを引っ張っていかなければならない。そんなリーダー像しか描けないのは、もはや傲慢とも言えるのかもしれません。

本書では、主人公のようなリーダーを、ファシリティブリーダーと呼んでいます。メンバーの意見を引き出し、よく聴き、あるいは触発してチームを引っ張っていくというタイプのリーダーです。

私自身のことを思い起こしてみると、自分は自分なりの正解に近いものを持って議論に臨めないと、どこか不安な気持ちになっていたことに気がつきます。しかしそれは、考えすぎ、あるいは気にしすぎだったのかもしれません。

本書で紹介されるファシリティブリーダーを知って、そう考えられるようになりました。
全て自分が考えたことだけでチームを動かしていては、自分の能力を超えた結果を出すことはできません。それだと、自分自身がチームの能力の限界値になってしまうということです。そんな状況を打開し、自分という個人の力の限界を突破するには、ファシリテーションを通じてチームの力を引き出す必要があると思いました。ファシリテーションの能力は、これからのリーダーにとって、必須の能力とも言えるのではないでしょうか。

リーダーには、専門知識などの「中身」よりも、フレームワークだったり論理の構造化だったりの「枠」を扱う力が求められるのだと学びました。枠の中身は、チームの議論を通じて埋めれば良いのです。

 

本書の巻末にある問いに答えてみた

Q.統合化リーダーとしてフルイ化学に乗り込んだリョウは、果たして成功するだろうか?皆さんがリョウの立場なら、この後、どうするか考えてみよう。

成功すると考える。なぜなら、リョウのファシリテーションをきっかけとした企業変革には再現性があると思うからである。
自分がリョウなら、まずはリーダーズ・インテグレーションを行って、ミニSWATメンバーの本音を引き出せるように図る。
その後、統合両者のメンバーを含んだタスクフォースを組み、そのチームに会社の問題解決にあたらせる。

Q. リョウが開発センターで行ったリーダーズ・インテグレーションは、リョウのハンディキャップ(女性、年下、専門知識を持たない、等々)を克服するために、どのように役立ったか?あなたなら、そのノウハウをどのように活かすか?

リーダーがハンディキャップを包み隠さずに開示することで、チームメンバー間でその認識が統一される。そうするとチームのメンバーは、自分たちがそのハンディキャップを埋めてあげないといけないと思うようになる。

この一連の流れがリーダーのハンディキャップを克服することにつながる。また、本音で話そうという雰囲気の醸成にもつながり、チームがより強くなる。

Q.リョウは自らを、ファシリテーターではなく、ファシリティブ・リーダーとした。ファシリテーターとリーダーはどう違うのか?ファシリティブ・リーダーとは何か?

ファシリテーターとリーダーでは目的が異なる。ファシリテーターの目的は、人と人との相互作用を活発にして議論を促進し、創造的なアウトプットを引き出すことにある。一方でリーダーの目的は、チームを率いて結果を出すことにある。

ファシリティブ・リーダーとは、ファシリテーションを道具として活用して、チームの意見を引き出し、触発して、結果を出すリーダーのことである。

Q.リョウのもとで、なぜ人は活性化するのだろうか?動機、感性、論理に分けて考えてみよう。

動機:自分の考えを引き出され、内発的な動機づけがなされるから
感性:オープンでインタラクティブな環境の中で、チームメンバーの人間味が感じられるから
論理:データやフレームワークを通じ、納得できる議論がなされるから

Q.会議のファシリテーションと組織変革のファシリテーションの違いは何か?

会議のファシリテーションはどこまでいっても議論の域を出ることはない。
一方で、組織変革のファシリテーションには「実行」が求められる。その点が大きな違いである。
実行には必ずと言っていいほどジレンマが生じるため、うまくバランスをとりながら変革を推し進めるマネジメントが必要になる。

Q.組織変革におけるファシリテーションの役割は何か?組織変革に必要な様々な要素(ビジョン、環境分析、事業戦略、人事施策、マーケティング、アクションプラン、実行の継続、行動の変化、等々)とファシリテーションはどのような関係にあるか?

組織の壁、上下の隔たりを超えて、社員の間で、目標達成のための前向きな意見や情報が活発に交換されるようにすること。これが組織変革におけるファシリテーションの役割である。
ファシリテーションそれ自体は、組織変革に必要な様々な要素を生み出すわけではない。あくまでも、もともと存在したが、使われずに眠っていたものを活性化させる働きがある。

Q.亀井は、SWATの直後に、チームから直接報告を受け、その場で決済しようとした。この行動の意味はなんだろうか?SWATのようなプロジェクト活動と、そのオーナーの重要性について考えよ。

その場で決済することには、SWATメンバーに、自分たちの活動で変化を起こすことができると自覚させる働きがある。
SWATのようなプロジェクト活動とそのオーナーは、部署の壁を超えて選抜される。その結果、それぞれ部署の部分最適に囚われることなく組織改革を実行することができるので、その点で重要である。また、選抜メンバーにて行われるので、使命感も持たせることができる。

Q. 変革を進める上で、エバンジェリストの意義は何か?それは必要か?この物語では、SWATがエバンジェリストを生んだが、それ以外にどのような方法が考えられるか?

エバンジェリストには、組織変革という「変化」の核となり、その熱や勢いを会社全体に波及させる意義がある。これはトップダウンの意思決定ではできないことであり、組織変革には必要なものである。
リクルートのNew RINGのような新規事業提案制度でも、組織変革は起こすことができると考える。

Q.あなたの会社にもあるハードな組織とソフトな組織を意識してみよう。組織を効果的に動かすためには、これをどう活かすことができるか考えてみよう。

既存事業の運営にはハードな組織が必要である。それは部署といった、役割のまとまりのことである。ただそれだけでは、組織は硬直化してしまい、やがて機能不全に陥ってしまう。ソフトな組織、つまり、社員の一人ひとりの帰属意識としての組織も意識すべきである。組織を効果的に動かすためには、トップダウンでできるのハードな変革だけでなく、それと同時に、SWATのようなボトムアップでのソフトな変革も起こるよう仕掛けることが重要である。

Q10.すべての変革には、起こす・実行する・継続するという3つのプロセスがある。変革を三日坊主とせず、継続するための方法について考えてみよう。自分自身に変革を起こし、結果を出し、継続する方法と組織のそれらとを重ね合わせて考えてみよう。

内発的な動機づけを行い、それを維持できるように努めること。開始から短期間で小さな成功を経験させ、変革の行動に対して、早めに自信を持たせること。その場で決済をするなど、変革の行動への承認を態度で示すこと。

Q11.読者の皆さんの日々の生活の中で、困っているシーンを捉え、あなたならどうファシリテーションするか考えてみよう。

ファシリテーションを通じてチームを巻き込みながら、まずは、困ったこと=問題を多面的、かつ全体的に捉えることに努める。
また、問題の認識をチームメンバーで統一させるために、事実ベースで話し、フレームワークを用いながら問題を構造化するようにする。

Q12.アクション・オリエンテッドなカルチャーをつくるファシリテーションを考えてみよう。

プラス思考で議論をポジティブな方向へと導くようにする。また、自分たちがコントロールできる領域へと議論を絞り込むように誘導し、建設的で前向き、目的を見失わない議論をさせる。

Q13.社外の人たち(例えば、顧客・サプライヤー)との打ち合わせを活性化するファシリテーションを考えてみよう。

アイスブレークを効果的に用いて、心を開きやすい環境を整える。また、同じ目的を共有するチームであることを分かってもらうために、中立な立場でいることを心がける。
現実を直視できるように、事実やデータに基づいて議論を進めるようにする。問題を構造化して捉え、常に全体最適を考えるようにする。

Q14.ファシリテーションは専門職か?それとも、すべてのビジネスマンに必須のスキルだろうか?

ファシリテーションはビジネスマンに必須のスキルだと考える。
会社で組織の一員として働く以上、チームで課題に取り組んで成果を上げることが求められる。チームの力を最大限に引き出す際に、ファシリテーションは強力な武器となる。
自分自身がファシリテーターを務めない場合でも、フォロワーとしてファシリテーションのイロハを知っておくことは有用である。

Q15.自分の考えや感情を、自らファシリテーションする方法を考えてみよう。

考えや感情を客観視しやすいように、それらをノートなどに書き出すようにする。
また、それらを構造化して整理し、MECEや全体を意識するようにする。
視点の切り替え(逆ならどうか?)や視座の切り替え(○○さんならどう考えるか?)も、自らをファシリテーションする上で有効な方法である。

自分の経験を振り返ってみる

直近、仕事で議論をする場がありました。
その議論の場までに、事前に各個人の意見をテキストで共有。当日はそれをもとに議論を行いました。

当日は皆が発言し、議論も活発でした。
しかし、会議後に私が感じたことは、「なんだかすっきりしない。」というものでした。

 

ここでは、「ザ・ファシリリテーター」を読んだ学びを念頭に、その会議を振り返り、
より良い会議にするためには何が必要だったのかを考えたいと思います。

◆良かった点
・会議前にテーマを設定し、意見を考える領域を意図的に絞り込むことができた。
・皆が発言し、それぞれの意見を述べることができた。

◆悪かった点
・各々の経験に基づいて問題意識が述べられたため、その問題の領域の重なりが小さかった。
議論が「空中戦」になっており、問題への共感が生まれにくかった。
・ブレストなのか、アクションを導き出すのか、最終の目的があいまいだった。

■気づき
データ・事実・フレームワークを用いて「思考の起点」を明確に共有できなければ、グループで効率よく議論し、優れた結論を導き出すことはできない。

今回の議論が有意義とはいい難いものに終わってしまったのには、明確な理由があると考えました。
その理由とは、メンバーの思考の起点が事前に揃えられていなかったことにあるのではないでしょうか。

自分なりに図式化を試みたものが上の図です。

左の図の状態では、あまりに意見の重なりが小さくなってしまい、グループ思考のシナジーも生まれにくいです。また、議論も地に足のついていないものになってしまいやすいはずです。

一方で、右の図のように、フレームワークなどを通じて、メンバーの思考が共有される場を整えること。チームで優れたアウトプットを出すためには、それが非常に重要なことなのだと気づくことができました。
また、それこそがファシリテーターの大事な仕事の1つなのだと再認識できました。

まとめ

本書は「ファシリテーション」を扱った本だが、それをただの会議効率化のノウハウとしては教えていません。それよりも、ファシリテーションがどのように組織の活性化、組織変革、そして個人の成長・行動の変化につながっていくのかということに焦点が当てられていました。

物語を通じて個人や組織の変化が描き出されているため、それらを擬似的に体験することができ、非常に学びの多い1冊でした。

これからの時代は「正解」よりも「意味」の方が重要だということが、様々なところで言われています。正解、つまり、役に立つという機能的価値よりも、意味があるという感性的価値の方により高い値がつくようになっています。こういう時代背景の下では、ファシリテーションによってチームの力を引き出す能力が、より必要とされるのではないでしょうか。

高度経済成長期のような頃は、リーダーが正解を掲げ、メンバーをそれに向かって一心に進ませていればよかったでしょう。

しかし、正解がないと言われる今の時代はそれではうまくいきません。チームのメンバーを巻き込みながら、皆が納得できる解を導き出す。そして、納得解の副次的効果としての意味で、メンバーを鼓舞し、解の質を継続的に磨き上げていく。それがより良いサービスやプロダクトの開発において、重要なポイントとなるのではないかと考えました。