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ウィニング 勝利の経営/ジャック・ウェルチ

ウィニング 勝利の経営 ジャック・ウェルチ

はじめに

この本の著者であるジャック・ウェルチは、ゼネラル・エレクトリック(GE)のCEOを約20年務めました。「20世紀最高の経営者」とも称されており、経営において優秀な結果を残したことは間違いないさそうです。強烈なリーダーシップで10万人を超える大企業のトップを勤め上げた彼から、私たちは何を学ぶことができるのでしょうか?

本書からは「人を行動に移させるアイデアと推進力」という点で学びを得ることができました。
私自身は、現時点で10人以下のチームを率いた経験があります。
10人を率いてチームを動かす今の力を、 10万人を率いて組織を動かす力に引き上げるには、何をすればいいのでしょうか?そういった視点で本書を読んでみました。

 

本書の論点

「組織の力を引き出して会社が勝つために、経営者は何を考え、何を実行すれば良いのか?」
というのが本書の論点です。

会社が勝つためには「人」がすべてであるという意見のもと、人を動かし、組織を動かす際のジャック・ウェルチ自身の経営哲学が述べられています。

今後に活かしたい学び

バリューとミッションを定め、パラドックスの中を突き進む

組織を率いると、山の様にたくさんのパラドックスに直面する。そのパラドックスのバランスをうまくとり、組織を前に進めていくのがリーダーであり、経営者である。

会社を勝利に導くためには、ミッションとバリューを定めることが重要である。優れたミッションは、可能と不可能のバランスを上手にとる。優れたバリューは、一貫性を持ってミッションを支え、具体的に行動を規定する。

率直であれ・選別せよ・発言権と尊厳(において平等であれ)の3つのバリューは、著者であるジャック・ウェルチが会社経営において最も大事だと信じているものである。

採用・人事管理・解雇といった人の管理、戦略・予算・事業拡大といった組織の運営においても、率直であれ・選別せよ・発言権と尊厳(において平等であれ)の3つのバリューに基づいて実行することが、会社を勝利へ導く。

ミッションはなぜ重要なのか

優れたミッションは、「可能と不可能が両立する」というパラドックスを含んでいる。

効果的なミッション・ステートメントは、「私たちはこのビジネスでどうやって勝とうとしているのか」という問いに回答を与えるものである。さらに、収益を上げるための方向性を明確に示しつつ(可能)、社員を自分たちは何か大きな重要なことを成し遂げようとしているという気持ちにさせる(不可能)ものである。

パラドックスのバランスのとり方には正解がありません。ジャック・ウェルチでさえその一般的な正解は示せていません。しかし、だからこそ、ミッションを定めることは、その会社の輪郭をはっきりとさせ、他社と差別化を図る上での重要な要素になりうるのではないでしょうか。

優れたミッション=強いメッセージを打ち出そうとする時、選別は避けて通ることはできないのだと感じました。何かを捨てて初めて、ミッションで掲げた言葉は、強さを帯びるのだと理解しました。

10人のチームを率いる場合、ミッションは、「あった方が良い」ですが、「必ずしもなくてはならないもの」ではないと思います。一方で、10万人を率いるとなると、そうはいかないはずです。10万人相手では、10人相手には通じた人柄や人間関係に紐づく信頼は通用しにくいのではないでしょうか。自分から言葉生み出して、ミッションとして社内を独り歩きさせ、組織全体を駆け巡らせる必要があるのだと思います。

「率直さ」・「選別」・「発言権と尊厳の平等」の3つのバリューは、なぜ重要なのか

率直さは、多様なアイデアを引き出すことにつながり、組織としての動きにスピードをもたらす。
選別は、人の部分と事業の部分の2点でビジネスを明確化する。
明確であれば、迷いがなくなって意思決定が早くなり、これもまたスピードにつながる。
発言権と尊厳の平等は、率直さと選別と結びついて初めて威力を発揮する。

著者が大事だと信じている3つのバリューは、すべて経営にスピードをもたらすものだと考えます。これらのバリューは、3つが揃って初めて大きな価値を発揮するのではないでしょうか。

率直さ・選別・発言権と尊厳の平等の3つの関係性を、著者の主張を通じて整理することができました。これまで別々には大事そうだと感じてはいましたが、結びつきが見えたことで、その強力さをより実感することとなりました。

率直さや選別は人々から毛嫌いされ、敬遠されることが多いと思います。だからこそ、リーダーシップをもって組織へと浸透させていくことが重要なのだと感じました。また、組織が大きくなると、あうんの呼吸や以心伝心といった「空気を読む」ことが難しくなります。そのため、選別によって方針を明確にし、率直さによって解釈のぶれをなくすことが重要なのだと感じました。

リーダーシップはなぜ求められるのか

  1. リーダーはチームの成績向上をめざして一生懸命努力する。あらゆる機会を捉えて、チームのメンバーの働きぶりを評価し、コーチし、自信を持たせる。
  2. 部下にビジョンを理解させるだけでは不十分だ。リーダーは部下がビジョンにどっぷりと浸かるようにさせなくてはならない。
  3. リーダーはみんなの懐に飛び込み、ポジティブなエネルギーと楽天的志向を彼らに吹き込む。
  4. リーダーは率直な態度、透明性、信用を通じて、信頼を築く。
  5. リーダーは人から嫌われるような決断を下す勇気、直感に従って決断をする勇気を持つ。
  6. リーダーは猜疑心と言い換えてもよいほどの好奇心で、部下に質問し、プッシュして、部下が行動で答えるようにさせる。
  7. リーダーはリスクをとることを、学ぶことを推奨し、自ら率先して手本を示す。
  8. リーダーは派手にお祝いをする。

リーダーシップはパラドックスにあふれている。
ビジネス面では、例えば「長期・短期」といったものがある。
組織面でも、上記に示したリーダーがすることのルール同士で、パラドックスが生じている。
こうしたパラドックスのバランスを取りながら、日々の経営をすることこそが、リーダーシップである、と著者のジャック・ウェルチは述べている。
リーダーになった瞬間から、自分の成功は他人を成長させて成功させることになる。
そこにもまたパラドックスが存在している。

本書を通じて、「リーダーシップ」と「パラドックス」というワードが自分の中で結びついたことは非常に大きな学びでした。今までは「人を率いる」という側面でのリーダーの理解が大部分でしたが、別の角度からリーダーの役割を言い換えることができるようになり、理解が深まりました。

複数のジレンマを同時に抱えながら、パラドックスや矛盾と向き合ってそのバランスをとり、ビジネスや組織を前に進めていく。経営における舵取りには、正解がなく、A or Bというほど明確なものがないため、選択に苦しみを伴う。だからこそ、それを背負う覚悟のある者がリーダーシップを発揮して、会社を経営していく必要があるのだと考えました。

戦略と予算はどう定めればよいのか

戦略とは、①「あ、そうか!」を見つけ、大まかな方向性を決め、②適切な人を配置して、③しつこく、たゆまぬ改善をしていくことである。
予算策定は、昨年の業績と競争相手を考慮して策定されるべきである。
事業部の目標達成及び報酬は、予算の数字達成とは関連づけされるべきではない。

本書では、戦略や予算を定める方法が述べられていますが、そこには率直さ・選別といったバリューが浸透している前提があることに注意すべきだと思いました。
また、戦略は実際のところは非常に単純なもので、大まかな方向性を決めて、死にものぐるいで実践することこそが要諦である。それが著者の意見だと解釈しました。

戦略における「あ、そうか!」は、分かりやすいようで曖昧な表現だと感じます。「あ、そうか!」となるということは、一般的には気づかれていないが、自分だけが気づいたということを表現しているのではないでしょうか。つまり、ここにもパラドックスや矛盾が含まれていると考えられます。これを見つけられるかどうかは、事業の命運を大きく左右しそうです。本書は戦略に触れておきながら、この点をあまり深堀りしてはいません。「人」に焦点を当てた内容であるため、この点には目をつむることとします。
事業部の目標達成と予算数字を関連づけないアイデアは、目からウロコでした。

まとめ

本書は、GEでCEOを務めたジャック・ウェルチの経営哲学を学ぶことができる1冊でした。
彼自身は「20世紀最高の経営者」とも称されてはいるが、本書を読む限り、当然のようにたくさんの失敗を積み重ねてきたようです。あくまでも哲学なので、そこに正解など存在しないということは重々承知しています。ただそれでも、経験をもとに語られる彼の語り口には、説得力と力強さが存在しました。

本書で得た一番の学びは、「複数のジレンマを同時に抱えながら、パラドックスや矛盾と向き合ってそのバランスをとり、ビジネスや組織を前に進めていくのが経営である。」という自分なりの考えに行き着いた点にあります。

感情をもったあいまいな存在である「人」が組織を為している。そのため、大きくなればなるほど、その内部にパラドックスやジレンマを抱えやすい。経営者はその点もしっかりと理解し、組織を率いていかなければならない、と学びました。
ビジネスにおいては、ビジネスモデルやテクノロジーは競争力となりうる要素です。それと同様に、リーダーシップを発揮して、ビジネスや組織内のパラドックスのバランスをとっていくことも、強い競争力につながることが分かりました。勝つためには「人」がすべてだ、という著者の哲学を、自分の仕事にも取り入れていきたいと感じました。

  1. 経営のパラドックスに対して進む方向を示すために、バリュー・ミッションを定める
  2. バリュー・ミッションはリーダーシップを持って、しつこく組織に浸透させる
  3. 会社を勝利に導くためには、ミッションとバリューを定めることが重要である