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旅のように楽しむ『これからの「正義」の話をしよう/マイケル・サンデル』

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Summary

図書館の開架でふと目にとまり、読み始めました。数年前に白熱教室が話題になっていたのを知っていましたが、その当時は気にはなっていたものの、読みませんでした。年末年始のお休み期間中でまとまった時間もあったので、これを機に読んでみようと思ったのが出会いのきっかけです。

政治哲学の講義がベースになっているだけあって、議論を前提とする姿勢が本書を貫いているように感じます。「こういう考え・主張があります、その主張を検証してみましょう、そうすると考えられる反論はこうです、そしてこういった疑問が浮かび上がります」など。答えや結論をショートカットで知るのではなく、そうした議論にじっくりつきあいながら、過程を楽しむのが本書の読み方だと思いました。ちょうど、旅行と旅の関係に近いです。要約やまとめを読んでも本書から得られるものは半分くらい。もう半分は、流れや行間・文脈を自分自身で追い、本書を案内役に道徳と政治をめぐる考察の旅に出ることでしか得られないと思いました。

個人的には、正義についての考え方の中で出てきた、正は善に優先するか、善が正に優先するかというフレームがとても印象に残っています。正義の議論に限らず、他のものの分類で適用してみると、理解を深めるのに役立ちそうだと思いました。

Question

正義に関する3つのアプローチとは?

幸福の最大化、自由、美徳の奨励

  1. 功利主義者のアプローチ 正義を社会全体の幸福最大化と結びつける
  2. リバタリアンのアプローチ 正義を自由と結びつける
  3. 美徳・道徳的な観点のアプローチ 正義を善良な生活に関する考えと結びつける

著者の主張、意見は?

選択の自由は正義にかなう社会に適した基盤ではない。そして、善き生について考えない中立的な正義の原理を見つけようとする試みは、方向性を誤っている。

多元的社会に生きる私たち人々は、最善の生き方についての意見が一致しない。また、「善」について考える際に切り離せない、道徳や宗教に関しても意見はみな異なるものだ。しかし、それは政治が美徳・道徳や善から切り離された場所で議論なされるべきという理由にはならない。

正義にかなう社会は、ただ効用を最大化したり(功利主義)選択の自由を保証したり(自由主義)するだけでは、達成できない。正義にかなう社会を達成するためには、善き生の意味を私たちがともに考え、避けられない不一致を受け入れられる公共の文化をつくりだす必要がある。それは、これまでわれわれが慣れてきた生き方とくらべ、もっと活発で積極的な市民活動によって達成される。困難な道徳的問題について、政治が道徳への関与を避けずに公で討議がなされれば、正義にかなう社会の実現はより確実なものになる。

Association of ideas

ユナボマー

正義を巡る論争の中で、完全な自由=完全な独立した個人ではいられない反論として、家族や仲間や国に対してもつ連帯の意識・責務の話が出てきます。そして、兄弟の責任、連帯意識によって直面するジレンマの事例としてユナボマーの名前が上がります。

自分が過去に読んだ本だと、『Zero to One/ピーター・ティール』『THINK AGAIN/アダム・グラント』にもユナボマーが出てきました。

ユナボマーの事件では、爆弾テロの犯人が兄であると気づいた弟が通報し、それによって兄であるテッド・カジンスキーは逮捕されたそうです。

Memo

議論の的となった事例

ハリケーン便乗値上げの是非
パープルハート勲章の受章資格をめぐる対立
2008年金融危機の企業救済
アフガニスタンのヤギ飼い
救命ボートにて生き残るために
オメラス 幸福の町の存続のために
肺がんの便益
爆発するガソリンタンク
経済的不平等と富の再分配
マイケル・ジョーダンのお金
腎臓の売買、幇助自殺、合意による食人
兵士の募集 徴兵すべきか兵士を雇うべきか
代理出産
クリントン元大統領 弁解の巧妙な言葉選び
ベースボールカードの交換、水漏れトイレの修理、自動車修理工サム 同意と契約
SF小説「ハリスン・バージロン」 平等主義の悪夢
アファーマティブ・アクション
車いすのチアリーダー
片足に障害があるプロゴルファーのゴルフカート
謝罪と補償 ドイツとホロコースト、日本と慰安婦、オーストラリアと先住民

有名な思考実験

暴走する路面電車の例で明らかになる道徳的原理の対立。できるだけ多くの命を救うべしという原理と、正当な理由があっても無実の人を殺すのは間違いという原理。この対立でジレンマが生じる。

功利主義 ジェレミー・ベンサム

事例:円形刑務所、貧民管理の改善プラン

反論
人間の尊厳と個人の権利を十分に尊重していない。
道徳的に重要なすべてのことを快楽と苦痛という単一の尺度に還元するのは誤りである。

富の再分配への異論
①働くことへの意欲を減退させ、効用の全体レベルを低下させる恐れがある⇒功利主義的観点
②基本的権利が侵害される 同意なしにお金を取り上げる⇒リバタリアン的観点

自由至上主義 ロバート・ノージック

契約を履行させることおよび、暴力、盗み、詐欺から国民を守ることに権限を限定された最小国家だけが、正当な存在である。それ以上の権限を持つ国家は、何かをするように強制されないという個人の権利を侵害するため、正当な存在とはいえない

自由と権利 イマヌエル・カント

道徳の最高原理とは何か?自由とは何か?

最大幸福の問題点

何が最大の幸福をもたらすのかを権利の基準とすることで、権利を脆弱にしている。一時的な欲望から道徳原理を導き出そうとするのは、道徳の考え方として誤っている。(多くの人に喜びを与えるものが正しいものとは限らない)

カントの言う自由

何にも妨げられずに、したいことをすること。ではない。
カントの考える自由な行動とは、自律的に行動すること。
自由に行動するというのは、ある目的を達成するための最善の手段を選ぶこと(他律)ではなく、目的そのものを目的そのもののために選択すること(自律)だ。
自分が定めた法則に従って行動するため、そこには道義上の責任も発生する。

「動機」だけが、道徳的か否かを明らかにする。
ある行動が道徳的かどうかは、その行動がもたらす結果によって決まらない。その行動を起こす意図=動機で決まる。重要なのは、何らかの不純な動機のためではなく、そうすることが正しいからという理由で正しい行動をとることである。
私利、必要性、欲望、選考、生理的欲求を満たそうとする動機(傾向性の動機)に対して、義務の動機(正しいことを正しい理由のために行おうとする)だけが、行動に道徳的な価値をもたらす。
利他的な人間の思いやりは「称賛と奨励に値するが、尊敬には値しない」。

平等 ジョン・ロールズ

無知のベール

無知のベールがかかっている状態では、原初状態の前提となる力と知識の平等が実現される。無知のベールは、すべての当事者を自分の社会的位置、長所と短所、価値と目的を知り得ない状態に置くことで、彼らが自分の優位性をたとえ無意識にでも利用できないようにするものだ。

目的の正義論 アリストテレス

正義は目的にかかわる。正しさを定義するには、問題となる社会的営みの「目的因=テロス(目的、最終目標、本質)」を知らなければならない。

正義は名誉にかかわる。ある営みについて考える あるいは論じる ことは、少なくとも部分的には、その営みが称賛し、報いを与える美徳は何かを考え、論じることである。